経済

【経済】中国の人民元の為替レートはどうやって決まってる?中国の「ドル・ペッグ制」とは?

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今日は中国の人民元の仕組みや、為替操作国指定について取り上げてみたいと思います。

アメリカが相殺関税の適用範囲を広げようとしている

数日前、こんなニュースが出てました。

www.nikkei.com

米商務省は23日、輸入品の不当廉売に関税を課す相殺関税制度を見直し、貿易相手国の為替介入も「不当な補助金」とみなして税率を上乗せする検討に入った。通商と為替をからめた異例の措置で、日本にとっても将来の為替介入の余地を狭める可能性がある。(記事より引用)

現在の米中貿易戦争で、産業補助金によってダンピングされた中国の安い輸入品に対して相殺関税をかけているアメリカですが、それに加えて、為替介入による通貨安も「不当な補助金」と見なすとのことです。

「相殺関税」はWTO(自由貿易機構)にも認められていますね。その概要は次の通り。(税関HPより:http://www.customs.go.jp/tokusyu/sousai_gai.htm

相殺関税制度とは、輸出国の補助金を受けた輸入貨物に対し、国内産業保護のために補助金額の範囲内で割増関税を課す制度であり、世界の貿易自由化と貿易ルールの強化を目指すWTO(世界貿易機関)の協定でも、一定の規律の下に認められているものです

この適用範囲を「為替介入」にまで広げようとしているわけですが、これは米中の貿易戦争が通貨・金融戦争へと発展していく第一歩だと思います。

中国の経済戦略の要である「ドル・ペッグ制」

中国の通貨である人民元は為替レートを基軸通貨のドルと固定・連動させる「ドル・ペッグ制」です。「ペッグ(peg)」とは、「釘を打つ」という意味なので、「ドル・ペッグ」は「ドルに(為替レートを)固定・連動する」というような意味合いです。

中国は1949年の建国以来、(様々な変遷はあるものの)基本的にはドル・ペッグを採用しています。直近では、1997年から「1ドル=8.28元」で固定されていましたが、2005年からは、もう少し緩やかな「管理変動相場制」へ移行しています。

なぜドルと固定・連動させるのかというと、その方が自国の通貨価値が安定するからです。発展途上国などは、通貨価値が安定しないのが普通なので、そうした為替リスクを怖れて海外の投資家はなかなか投資をしません。しかし、世界から信用されている基軸通貨のドルと連動させれば、為替も安定し、海外からの資本を集められます。

為替介入による「為替操作」で関税引き上げを相殺する中国

しかも、中国はこのドルと元の為替レートを、意図的に自国通貨安(元安)になるように固定・連動させてきました。元安になれば、割安で世界に自国のモノを売れ、世界に市場を広げることができます。(中国はこのような貿易黒字によって獲得した外貨を自国の軍備増強に使ってきました)

では、どのようにして、ドルに対して自国の為替レートを連動させるかというと、その方法が通貨当局による「為替介入」です。

中国人民銀行(通貨当局)が、市場において「ドルを買い、人民元を売る(ドル買い、人民元売り)」という操作をするわけです。そうすると、売られた元は安くなり、ドルは高くなります。

中国の通貨当局は、毎日ドルに対して為替レートが定められた変動幅内に収まるよう為替介入を行っているのです。「為替介入によって、人民元の対ドルレートを常に割安に固定する」。これが、中国の”管理”変動相場制です。

このカラクリを使えば、米中貿易戦争において、関税を上げられても、その分通貨安誘導によって相殺できるわけです。実際、5月13日には4か月ぶりの安値をつけています。

www.bloomberg.co.jp

アメリカが認定する「為替操作国」とは?

このような国家による人為的な為替レートの操作を、アメリカの歴代政権はこれまである程度容認してきました。

本来、アメリカはこのような意図的に自国に有利になるような為替操作を行う国を「為替操作国」として認定し、制裁を行う力を持っています。

「為替操作国」とは、アメリカの財務省が半期に一度(毎年2回)提出する為替政策報告書に基づいて、アメリカ議会が不当に為替を操作していると認定した国のことを指します。

アメリカに為替操作国として指定されると、自国通貨の強制的な切り上げや、(それに応じない場合は)制裁関税が実行されます。

1980年代~90年代には中国含め、いくつかの国が為替操作国に認定されたことがありますが、1994年以降に指定された国はありません。アメリカは何度も、中国の為替操作国認定を見送ってきたのです。(2005年に中国が管理変動相場制に移行したのも、アメリカ議会の批判をかわすためでした)オバマ政権時代も、何度も認定候補リストに上がりながらも、認定まではいきませんでした。

これにはいくつか理由があるのですが、1つは中国市場の旨みがあります。

中国人民銀行が為替介入によって、外国為替市場からドルを大量に購入し、代わりに人民元を売ると、市場における人民元の量が増えます。

これは実質、金融緩和と同じことなので、中国国内の消費が活性化されて、市場が拡大するのです。グローバルに事業を展開するアメリカのIT企業や自動車会社にとっては、ビジネスチャンスが広がるわけです。

こうした力学が働いていたことや、中国と事を荒立てたくないという思惑もあり、中国の為替操作国認定はずっと見送られてきました。

選挙公約に「中国の為替操作国認定」を掲げていたトランプ大統領

しかし、トランプ大統領の誕生によってアメリカの通商政策が大きく変わりました。

トランプ大統領は2016年の大統領選挙中の公約で、「大統領就任の初日に中国を為替操作国認定する」と謳っていました

結局、北朝鮮問題で中国の協力を引き出す必要などもあり、認定は見送られましたが、トランプ大統領の対中カードの切り札として依然存在しています。(※その後、2019年8月5日にアメリカは中国を為替操作国に指定しました)

今回の為替介入に対する相殺関税適用は、この「為替操作国認定」の一歩手前の政策だと思います。

私が予想するに、トランプ大統領は、任期中、もしくは再選した場合は2期目の間には必ず中国の為替操作国認定に踏み込むと思います。そして、元の切り上げを要求し、最終的に中国の管理変動相場制を放棄させるはずです。

なぜなら、中国の経済・軍事における覇権をつぶすことが現在のアメリカ政府・議会の大義名分となっているからです。中国の経済覇権を成り立たせているのは、「ドル・ペッグ制」(はっきり言えば、「ドル本位制」)です。

ここをつぶせば、中国は内部から崩壊していきます。米中貿易戦争は中国の対米貿易黒字を削減させる「兵糧攻め」の戦略です。

ここから、さらに踏み込んで通貨戦争としての元の切り上げを実行できれば、中国の国際収支は当然ひどく悪化し、赤字に転落。そんなことになれば、巨額の外貨準備によって支えられてきた中国の国際戦略(いわゆる「一帯一路構想」)も頓挫せざるをえませし、当然、中国国内のゾンビ企業も改革を迫られるわけですね。

まさしく、新局面に入りそうな米中貿易戦争。ここからの動きに目が離せません。

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