今日は、「為替介入」をテーマにして、わかりやすく経済の基礎知識を説明します。
為替介入とは?
時々、経済に関してのニュースなどに出てくる「為替介入」。
「為替介入」とは、政府や中央銀行が為替レート(通貨の交換レート)をコントロールするために時々使う政策です。
為替介入には2つのパターンがあります。
1.自国通貨売り、外貨買い
主に使われるのは、「自国通貨売り、外貨買い」です。
たとえば、日本の円がアメリカのドルに対して、過度に円高になった場合、輸出企業が大きなダメージを受けたりしますので、円安にしたいという国としての思惑が働きます。
その際、通貨当局は、外国為替市場で、「円売り、ドル買い」の為替介入を行います。
円が売られれば、円が市場に出回るようになる(円の量が増える)ので、円の価値は下がります。反対にドルは買われるので、ドルの価値は高まります。つまり、「円安・ドル高」になります。
(為替介入の結果、ドルが日本政府・通貨当局の手元に「外貨準備」として貯まります)
2.自国通貨買い、外貨売り
経済危機などで、自国通貨が暴落するようなときは、その逆の「自国通貨買い、外貨売り」が行われます。
こうした時は、蓄積した外貨準備を切り崩して、たくさん売ることで、自国通貨を買い支えるわけです。
こちらの記事の「外貨準備」の項目でも為替介入について説明しているので参考にしてみてください。
日本の為替介入の仕組み
では、日本において為替介入はどのように行われるのでしょうか。
「円売り、ドル買い」の介入について説明してみます。
日本では、為替介入は財務省の指示の下、中央銀行である日銀が代理で行います。
為替介入のプロセスは次の2ステップが基本形です。
1.政府短期証券(FB)の発行
まず、外為市場で売るためのお金(円)を用意する必要があります。
そのために、財務省は「政府短期証券(FB:)」という証券を発行して、市中の銀行から資金を調達します。
1999年までは、いったん日銀がFBを引き受ける方式でしたが、2000年から市中銀行に入札で発行し、さばききれなかった分を日銀が引き受ける方式に変更されたと言われています。
(実際の流れとしては、まず日銀がFBを引き受けさせて、財務省が為替介入を行った後に、改めて市中銀行にFBを発行して、日銀に借りたお金を返す流れになっているようです。介入情報が市場に漏れないようにするための措置ということですね)
2.外為市場で円を売り、ドルを買う
政府は、調達したお金(円)を外為市場で売り、代わりに外貨(ドル)を買います。
たいていの場合、アメリカ国債などの外貨建て資産を買うことになります。
円が売られることで(供給が増えて)円安になり、ドルは買われることで(需要が増え)ドル高になります。
不胎化介入と非不胎化介入とは?
為替介入には2つのタイプがあります。
「不胎化介入」と「非不胎化介入」です。
「不胎化(sterilization)」とは、英語では「不妊/避妊/殺菌」などを意味する英単語です。
為替介入における「不胎化」とは、「為替介入によって市場に放出されたお金・マネーを、再度、市場から吸収すること」です。
詳しく説明するとこういうことです。
たとえば、先ほど触れたような1999年までのスタイルで、日銀がFBを引き受け、政府が調達した円資金を市場で売って為替介入を行うと、円安にはなるものの、介入前よりも、市場に出回る円の量(マネタリーベース)が増えてしまいます。
その際、マネタリーベース(日銀が市中に直接的に供給する貨幣の量)を一定に保つことを目的に、市場で増えた分のお金を再度日銀が吸収することを「不胎化」、そのまま放置することを「非不胎化」といいます。
「不胎化」と「非不胎化」
「不胎化介入」=為替介入によって増えたマネタリーベースを、吸収すること。目的は、マネタリーベースを一定に保つため。
「非不胎化介入」=為替介入によって増えたマネタリーベースを放置すること。実質的な金融緩和と言える。
不胎化介入のために日銀がすることは、市中銀行に国債を売ることです。(売りオペ)
これで市中銀行の資産である現金が国債に置き換わり、市場からお金を吸収できるわけです。
では、2000年以降のスタイルで、日銀を通してではなく、市中銀行がFBを受け入れる形の場合はどうでしょう?
FBで市中から吸い上げたお金を為替介入で再度市場に放出するので、マネタリーベース自体は変わらないのです。
つまり、これだけで不胎化になっています。
しかし、もしこのタイミングで日銀が買いオペ(国債を市中銀行から買い、市場にマネーを供給する)などを実施したとしたら、これは事実上の非不胎化介入になります。
2003年に行われた大規模な為替介入
日本で大規模な為替介入が行われたのは、2003年です。
当時、財務省は35兆円という巨額の「円売り、ドル買い」の為替介入を行いました。
この時の日銀は、日銀当座預金の目標額を引き上げてマネタリーベースを増やす政策(=量的緩和政策)を行っていました。(実施期間は2001年~2006年)
「円売り・ドル買い介入」と「量的緩和」の組み合わせは、事実上の非不胎化介入です。
円売り・ドル買いで円安に誘導しながら、さらにその効果を確かなものにするために量的緩和政策が組み合わされている事例と言えます。
しかし、最近はあまり為替介入は日本では行われていません。
理由としてはいくつかありますが、そこまで効果がないのではないか?という声が多くあるからです。
一方で、為替介入を日常茶飯事で行っている国があります。それが中国です。
中国では、自国通貨の人民元とドルの為替レートを、やや元安になるように常に一定に保つために為替介入を毎日行っています。
為替介入によって外貨のドルをたくさん保有し、そのお金を原動力に、経済を拡大させてきたのが中国なのですね。
まとめ
ということで、簡単に為替介入について見てきました。
一応参考書籍も載せておきます。少し前の本ですが、経済の基礎について対談形式でわかりやすく語られています。いまや日銀の副総裁になった若田部昌澄さんの鋭いコメントにも注目です。